商談

失注の原因は5つに分けると見えてくる。「お金・時間・必要性・急ぐ理由・信頼」で振り返る方法

「予算が合わなかった」「タイミングが悪かった」で終わらせていませんか。海外の営業研修で紹介されている「お客様が買わない5つの理由」を使って、失注した商談のどこでつまずいたかを見つける振り返り方と、次の商談で防ぐ方法をまとめました。

失注の原因は5つに分けると見えてくる。「お金・時間・必要性・急ぐ理由・信頼」で振り返る方法

力を入れて準備した商談で、「今回は見送らせてください」と言われる。理由を聞くと「予算が合わなくて」「今はタイミングが悪くて」。営業日報には「予算不足で失注」と書いて、次の案件に移る。

よくある流れですが、これでは同じ失注が繰り返されます。お客様が口にした理由が、本当の理由とは限らないからです。

この記事は、失注した商談をどう振り返ればいいか分からない方、チームの失注理由が「予算」と「タイミング」ばかりになっている営業マネージャーに向けて書いています。海外で人気の営業研修家ビクター・アントニオが紹介している「お客様が買わない5つの理由」をもとに、失注の振り返り方と、次の商談で防ぐ方法をまとめました。

「予算が合わない」は、本当の理由とは限らない

アントニオは、お客様が買わない理由を次の5つに分けています。英語の頭文字をとって「M.T. N.U.T.」と呼んでいます。

理由 お客様の言葉の例 本当に起きていること(考えられるもの)
お金(Money) 「予算が合わなくて」 払うだけの価値が見えていない
時間(Time) 「今は忙しくて」 時間を使うだけの見返りが見えていない
必要性(Need) 「今のままで困っていない」 困りごとに、まだ気づいていない
急ぐ理由(Urgency) 「来期に考えます」 今決めないと損をする理由がない
信頼(Trust) 「社内で検討します」 営業や会社、商品を信じきれていない

右の列は、考えられる理由の一つです。「来期に考えます」は予算を組む時期の都合で、「社内で検討します」は正式な決裁の手続きで出てくることもあります。決め方や予算の日程も、あわせて確かめましょう。

アントニオによれば、本当にお金がない人は少数です。価値がはっきり伝われば、多くの人はお金を出します。時間も同じで、お金が節約できる、売上が増えると分かれば、人は時間をつくります。

つまり「お金がない」「時間がない」は、価値が伝わりきっていないサインであることが多いのです。もちろん、本当に予算の枠がない場合もあります。だからこそ、言葉をそのまま受け取らず、5つのどれに当たるのかを確かめる必要があります。

振り返るときは「順番」に確かめる

アントニオは、商談の最初はお客様の「買いたくない気持ち」が高く、説明を進めながらそれを下げていき、どこかで「買おう」という線を越えてもらうのが商談だと説明しています。

どこで止まったかを見つけやすくするために、この記事では、5つの理由を次の順に確かめることをおすすめします。これは編集部が振り返り用に整理した順番で、実際の商談では、いくつかの理由が重なっていることもよくあります。

  1. 必要性:「この困りごとは、解決したほうがいい」と気づく
  2. 急ぐ理由:「しかも、今のうちに解決したほうがいい」と感じる
  3. お金と時間:「この金額と手間をかけても、見合う」と納得する
  4. 信頼:「この会社、この担当者なら任せられる」と安心する

どの段階で止まったかが分かれば、次に何を直せばいいかも見えてきます。

理由ごとの見分け方と、次の商談での防ぎ方

お金:「高い」の前に、価値を数字で伝えられたか

「予算が合わない」と言われた商談は、提案の中でお客様が得られるものを、お客様の数字で示せていたかを振り返ります。

  • 今かかっている費用や手間を、ヒアリングで聞けていたか
  • 導入後に何が変わるかを、金額や時間で伝えられたか
  • 見積もりの金額だけが、先に一人歩きしていなかったか

次の商談では、見積もりを出す前に「今、この作業に毎月どのくらい時間がかかっていますか?」と聞いておきましょう。価格の話になったときの考え方は「「高いですね」と言われたら、値引きの前に確かめたいこと」で詳しく紹介しています。

時間:「忙しい」の裏にある見返りの不足

「今は忙しいので」と言われた場合は、導入にかかる手間に対して、得られる見返りが小さく見えていた可能性があります。

  • 導入の手間(設定、研修、データの移行など)を具体的に説明したか
  • その手間を、こちらがどこまで引き受けるかを伝えたか
  • 導入したら、どの作業がどれだけ減るかを示したか

「忙しい」お客様ほど、実は時間を減らす方法を求めています。「初期設定とデータの移行はこちらで行います。御社にお願いするのは、担当者の方の確認だけです」のように、自社で対応できる範囲を確かめたうえで、お客様の手間を作業ごとに示すと、受け止め方が変わります。

必要性:お客様は困りごとに気づいていたか

「今のままで困っていない」と言われた場合は、お客様自身が困りごとに気づく前に、提案を始めていた可能性があります。

アントニオは、必要だと分かっている人と、まだ気づいていない人がいると言います。気づいていない人に商品の説明をしても、「良さそうだけど、うちには要らない」で終わります。

  • 今のやり方で、うまくいっていないことを聞けたか
  • それが続くと、どんな影響があるかを一緒に考えたか
  • 困りごとを、お客様自身の言葉で話してもらえたか

ヒアリングで使える質問は「営業ヒアリングの質問の順番」にまとめています。

急ぐ理由:「今でなくてもいい」と思われていないか

必要性は分かってもらえたのに、「来期にあらためて」と言われる。これは急ぐ理由が伝わっていなかったサインです。

アントニオは、導入して得られるものだけでなく、決めないことで失うものも伝えるよう勧めています。

  • 今のままにしておくと、毎月どれだけの手間や費用がかかり続けるか
  • 繁忙期、制度の変更、契約の更新など、期限になる出来事はあるか
  • 導入までにかかる期間から逆算して、いつ決める必要があるか

ただし、根拠のない「今だけ」「残りわずか」で急がせるのは逆効果です。信頼を失い、次の機会もなくなります。急ぐ理由は、お客様の状況の中から見つけるものです。

信頼:「この人に任せて大丈夫か」に答えられたか

必要性も急ぐ理由もあり、予算も合いそうなのに決まらない。そんなときに疑いたいのが信頼です。

  • 同じ業種や規模のお客様の導入事例を示せたか
  • 導入後の支援の体制を説明したか
  • 約束した日時に連絡する、質問にすぐ答えるといった、小さな約束を守れていたか

「社内で検討します」という言葉の裏に、信頼の不足が隠れていることもあります。言い方の例は「「検討します」と言われたら」で紹介しています。

振り返りは「自分の側」から始める

失注を振り返るとき、つい「お客様に予算がなかった」「タイミングが悪かった」と、お客様の側に理由を求めてしまいます。

研修家のジェフリー・ギトマーは、提案の最後に「考えさせてください」と言われる場面について、その原因のほとんどは営業の側にあると話しています。この考え方は、失注の振り返りにも役立ちます。自分を責めるためではなく、自分の側に原因を探すほうが、次の商談で直せることが見つかるからです。ギトマーが勧める問いかけは、次のようなものです。

  • お客様にとって得になる提案を示せたか
  • 買う動機と、急ぐ理由を見つけるだけの質問をしたか
  • 他社との違いを示せたか
  • お客様が期待している結果を知っていたか

ギトマーは、最後の「期待している結果」をいちばん大事だとしています。

失注した商談を振り返るシート

5つの理由と、ギトマーの問いかけを組み合わせると、次のような振り返りシートになります。失注した商談ごとに、短い時間で書ける形にしています。

確認すること 〇/△/× 次の商談で直すこと
お客様は、困りごとを自分の言葉で話していたか(必要性)
今決めないと困る理由を、一緒に確かめたか(急ぐ理由)
得られるものを、お客様の数字で示したか(お金)
導入の手間と、こちらが引き受ける範囲を伝えたか(時間)
事例や支援体制を示し、小さな約束を守ったか(信頼)
お客様が期待している結果を知っていたか

×や△がついた行が、つまずいた場所の候補です。チームで集めると、「うちのチームは急ぐ理由を伝えるのが弱い」といった傾向が見えてきます。案件の管理と合わせて使う方法は「営業パイプライン管理の始め方」を参考にしてください。

受注した商談からも学ぶ

振り返りは、失注した商談だけのものではありません。アントニオは、買ってくれたお客様に「なぜ当社を選んでくださったんですか?」と聞くことを勧めています。会社の資料には書かれていない、本当の決め手が分かるからです。

「今後の参考にさせていただきたいのですが、最終的に当社に決めていただいた決め手は何でしたか?」

受注の理由と失注の理由を並べると、5つのうち、自分たちが得意な段階と苦手な段階がはっきりします。

具体例:「予算不足」で終わっていた失注を振り返る

ここからは、考え方を分かりやすくするための架空の例です。勤怠管理のシステムを提案していた営業が、従業員80人の製造業の会社から「予算が合わないので、今回は見送ります」と言われた場面です。

最初、営業日報には「予算不足で失注」とだけ書いていました。振り返りシートで確認すると、次のことが分かりました。

  • 必要性:〇。担当者は「月末の集計に3日かかる」と自分から話していた
  • 急ぐ理由:×。いつまでに解決したいかは聞いていなかった
  • お金:△。月額の費用は伝えたが、集計の3日間を金額にして比べていなかった
  • 信頼:〇。同じ業種の事例を紹介したところ、担当者から「その会社の導入後の様子をもっと聞きたい」と質問があり、約束した資料も期日どおりに届けていた

この営業は、急ぐ理由とお金の伝え方でつまずいていた可能性が高いと気づきました。そこで次の商談からは、ヒアリングの段階で「この集計作業は、いつまでに楽にしたいですか?」と聞き、集計にかかる時間を人件費に置き換えて、月額の費用と並べて示すようにしました。

失注したお客様にも、半年後に「その後、月末の集計はいかがですか?」と連絡する予定を入れました。失注は、その時点の判断です。状況が変われば、また話を聞いてもらえることがあります。

よくある質問

お客様に失注の理由を直接聞いてもいいですか?

聞いて構いません。ただし、責めるような聞き方は避けましょう。「今後の提案の参考にしたいので、差し支えなければ、今回見送るご判断で重視された点を教えていただけますか?」のように、お願いの形で聞くと答えてもらいやすくなります。本当の理由を話してもらえないこともあるので、聞いた答えと振り返りシートの両方で考えるのがおすすめです。

振り返りに時間をかけられません。

全部の失注を振り返る必要はありません。まずは、金額の大きかった案件や、最後まで進んだのに決まらなかった案件から始めましょう。月に3件でも、続けると傾向が見えてきます。

チームで振り返ると、責め合いになりそうです。

個人の失敗を探すのではなく、「チームとして、どの段階が弱いか」を見つける場にしましょう。振り返りシートで、どの項目に×が多いかを数えるだけでも十分です。うまくいった商談の工夫を共有する時間も一緒に設けると、前向きな場になります。

まとめ

失注の理由は、「予算」や「タイミング」で終わらせると見えなくなります。

  1. お客様が買わない理由は、お金・時間・必要性・急ぐ理由・信頼の5つに分けられる
  2. 「お金がない」「時間がない」は、価値が伝わりきっていないサインであることが多い
  3. 必要性→急ぐ理由→お金と時間→信頼の順に確かめると、どこで止まったかを見つけやすい
  4. 原因は、まず自分の側から探すと、次に直せることが見つかる
  5. 受注したお客様にも、選んだ理由を聞いてみる

まずは今月の失注を1件選んで、まずは10分を目安に、振り返りシートを書いてみてください。次の商談で直すことを、一つ見つけるところから始めましょう。

参考にした動画・資料

動画の内容をもとに、編集部が日本の営業向けに要点をまとめ直したものです。発言の全文訳ではありません。

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